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岐阜地方裁判所 昭和43年(ワ)639号 判決 1969年8月27日

原告

樋口淳子

被告

森口健

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告に対し金七〇万円およびこれに対する昭和四一年一月 五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告はその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその一を被告らの負担とし、その四を原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは、各自、原告に対し金二九四万〇、八六六円およびこれに対する昭和四一年一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、昭和四一年一月四日午後七時四〇分頃、岐阜市金町七丁目一番地先交差点北側の横断歩道を原告が西側から東側へ横断中、被告清子が普通乗用自動車(登録番号名古屋五る九二五七号)を運転南進して来て右横断歩道を通過しようとしてその右前部を原告の左腰部付近に衝突させてその場に転倒させた。

二、(1) 本件事故の現場は岐阜市の中央部を南北に貫通し国鉄岐阜駅へ通ずる主要道路であつて人車の交通量は極めてひんぱんなところであつて制限時速は四〇キロメートルであるが、事故現場の横断歩道の南側には信号機の設置されている交差点となつている。

(2) 本件事故当日の天候は霙まじりの雨降りで特に自動車にとつては視界が充分でない状況であつた。

(3) 右の状況下で原告は帰宅のため右金町通り西側から東側へ渡るべく自己が対面する信号機が青色であることを確認の上横断を開始した。もつとも傘をさしていたこともあつて常時信号の変化を見守つていた訳ではないが信号は青色であるものと信じ切つて横断中であつたものである。仮に被告清子の対面する信号が青色であつたとしても、本件現場の道路の幅員は二六・五メートルであるから通常大人が一秒間に一メートルの早さで横断するとしても渡り切るには約二七秒を要するのであるから、横断開始直前の信号が青色であつても横断途中信号が赤に変わることは々経験するところである。

(4) 被告清子は、前記のように視界不充分の状況にあつた上に被告車の右側車線センターライン寄りの斜前方の位置を先行する乗用車が本件横断歩道直前で停止したのを現認し乍ら漫然横断歩道を通過しようとした。かゝる場合同被告としては仮に自己の対面する信号が青色であるとしても横断歩道を歩行者が通る可能性が極めて高いのであるから、先行車が措つた如く最徐行ないしは一時停止をなし横断歩道上の安全を確認の上進行すべき注意義務があるのに同被告はこれを怠つた過失があつたものである。

(5) 被告健は、本件加害自動車の所有者であり、本件事故当時は自己もその子二名と共に右自動車に同乗し妻である被告清子をして運転に当らしめていたもので、仮に被告健でなくて株式会社森口健商店がその所有者であるとしても、本件加害自動車について自賠責任保険に加入しているのは被告健であつて同被告は商売上右自動車を運転しているが、本件事故当日は被告一家の者がこれを借り受けて被告清子の生家へ私用で出向いた帰途引き起した事故であるから被告両名は自賠法三条によつて損害賠償責任がある。

(6) 仮に以上の点が認められないとしても、被告健は株式会社森口健商店の代表者として本件加害自動車の運行管理ならびに自己の妻でああると共に同会社の従業員でもある被告清子を監督すべき立場にあつたから民法七一五条二項の代理監督者として損害賠償責任を負うべきである。

三、(1) 原告は、本件事故によつて骨盤骨折、顔面、右手、両膝打撲擦過傷、前歯折損の傷害を受け、当時の診断では全治約四ケ月ということであつた。

(2) しかし実際の治療状況は事故直後から昭和四一年六月二二日までの五ケ月半は事故現場附近の操病院に入院し、右病院退院後も同病院へ通院するかたわら岐阜大学医学部附属病院へも通院し、昭和四二年一一月一四日から昭和四三年四月二四日までの約五ケ月半に亘つて岐阜県立下呂温泉病院に入院し、右退院後も美濃加茂市太田町野尻整形外科病院ならびに岐阜大学医学部附属病院へ通院し現在なお加療中である。

(3) 原告は前記のように約三ケ年の長期間に亘り治療を続けたにも拘らず現在なお骨盤骨折後の患部が不完全癒合のため恥骨坐骨に変形を生じ、これにより左下肢不全痳痺の後遺症が存し、左股関節の屈曲障害と臀部、左股関節に痛みが残り歩行時に跛行状態となり、また正坐することも不自由で今後少くとも六ケ月間の治療を要すると診断されている。一方原告は本件事故で路上に転倒した際、顔面、頭部を路面に強打したため、受傷後三日間位は意識不充分であつたが現在においても後頭部痛や眩暈の症状が残り、今後長期間同症状が続くものと診断されている。

四、原告が本件事故によつて蒙つた損害は、次のとおりである。

(一)  積極的財産損害

イ、下呂温泉病院の治療費 金八、七九二円

ロ、入院中の栄養費(牛乳代) 金三、一八〇円

ハ、操病院入院中の雑費 金九、七一〇円

ニ、下呂温泉病院入院中の雑費 金五、九八四円

ホ、診断書代 金一、一〇〇円

ヘ、通院用の交通費 金六万円

ト、操病院入院費、治療費 金三三万三、六七〇円

チ、折損前歯の入歯代等 金一万一、六三〇円

リ、コルセット代 金七、一〇〇円

合計金四四万一、一六六円

(二)  消極的財産損害

本件事故当時原告は二三才であつて日本国有鉄道岐阜工事局に勤務していたが、前期傷害により長期欠勤のため昭和四二年四月二五日付で解雇された。原告が本件事故の前一ケ年間に得た給与額は金一七万四、六〇一円であつたのでもし本件事故に遭わなければ、前記のとおり一応の治癒(後遺症状を除外)をみるであろう昭和四四年六月ごろまでの間の約三ケ年半の間少くとも右の割合による収入を挙げ得たであろうのに僅か金九、〇〇〇円の給与を得たのみであつたから、この間の逸失額は金六〇万二、一〇〇円である。

(三)  慰藉料

原告は本件事故によつて一瞬のうちに大怪我を負い最も楽しかるべき青春時代と職場をも失い、三ケ年にも及ぶ長期間に亘つて入院または通院という陰惨な日々と肉体的苦痛に堪えたにも拘らず今尚、前記のような症状であつてみれば、今後における結婚問題、出産等について甚大な不利益や不安を余儀なくされるばかりでなく、一応の治癒を見てのちの再就職、稼働についても本件受傷前に比べれば相当の制約や労働能力減退が生ずるであろうことも明白であり、これらの諸事情にてらし原名の精神的、肉体的苦痛、将来における不利益等について金銭をもつて慰藉するとすれば、最低二五〇万円を下ることはない。

五、よつて、原告は被告らに対し、各自、前記四の(一)(二)(三)の合計金三五四万三、二六六円から被告らから原告に対し支払われた昭和四一年一二月一九日の金一五万円、昭和四二年九月二〇日金一〇万円、四の(一)のト、チ、リの合計金三五万二、四〇〇円の総合計金六〇万二、四〇〇円を控除した金二九四万〇、八六六円およびこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四一年一月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

被告両名訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め答弁として

請求原因一、の事実は認める。

同二、の(1)(2)の事実は認める。(但し、事故当時の交通量は極めて少なかつた。)

(3)の事実中原告の対面する信号機が青色であつたことは否認する。

(4)の事実中被告清子の過失の点は否認する。

(5)の事実中被告健がその子二名と共に本件加害自動車に同乗していたこと、同被告の妻である被告清子が右自動車を運転していたことは認めるが、右自動車の所有者が被告健であることは否認する。右自動車の所有者は株式会社森口健商店であるから、被告健に保有者責任はない。

同三、の事実中(1)は認める。

(2)の事実中原告主張の期間原告が操病院に入院ならびに通院し、かたわら岐阜大学医学部附属病院へ通院治療したことは認めるがその余は不知、なお原告は昭和四二年一〇月二三日より同月二五日まで名古屋大学医学部附属病院に通院した。

(3)の事実は否認する。右名古屋大学医学部附属病院での検査で骨盤骨折は全く治癒していることが判明している。

同四、の(一)の事実中イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、は認めるが、ト、は否認する。被告が支払つた操病院費用は金三四万〇、三二〇円である。チ、は認める。但し、被告らは堀歯科にこれ以外に一五〇円を支払つた。リ、は認める。

同四、の(二)(三)は争う。

同五、の事実中被告らから原告に対し昭和四一年一二月一九日金一五万円、昭和四二年九月二〇日金一〇万円を支払つたこと操病院入院治療費、折損前歯の入歯代等、コルセット代金七、一〇〇円を支払つたことは認めるがその余は争う。操病院へ支払分は金三四万〇、三二〇円であり、歯治療費は金一万一、七八〇円である。

と述べ、次のとおり主張した。

本件事故は信号を無視して横断歩道を渡つた原告の過失によつて惹き起されたものであつて被告清子に過失はない。すなわち、被告清子は本件横断歩道の手前約一〇〇メートルの地点で信号が青色になつたので安心して時速約二〇キロメートルの速度で進行して本件横断歩道にさしかかつたとき、赤信号を無視して歩道を渡つてくる原告を発見したので急制動をなしたが間に合わずこれに衝突したものである。仮に原告主張のように原告の横断中途において信号が赤色に変つたものとしても、信号は青、黄、赤という順序で変つていくので横断に要する時間を併せ考えると原告は黄色信号で横断を開始したか、横断開始後黄色信号になつたのに引返さずそのまま横断を続けたかのいずれかであり、原告は歩行者として予め信号に注意して信号が変わるまでには渡り切れるという一応の見込をつけて渡り始めるべきであるのに横断開始直前に信号を一見しただけでその後は全く信号を見ていなかつたのであるから全くその安全を確認しておらず、その過失は最初から信号を無視した場合と何ら軽重はない。いずれにしても原告の横断は不法なものであつて被告清子としては本件横断歩道を通過するに際しこのように交通法規に違反して横断して来る者があることまで予見すべき義務はないから本件事故について同被告に責任を負わせることはできない。また本件加害自動車と先行車とは本件横断歩道付近では殆んど並進し車体半分位本件加害自動車が遅れていたので先行車のブレーキランプ等は眼に入らない位置にあり、横を並進している車にまでは注意していなかつた(通常そのような義務もない)ため、この車が停止したかどうかはとつさに気付かなかつたものである。従つてこの点から被告清子に過失ありとはなし難い。仮に被告清子に何らかの過失があつたとしても原告の過失は極めて大であつてその過失割合は九割を下らないものと考える。

(証拠略)〔略〕

理由

昭和四一年一月四日午後七時四〇分頃、岐阜市金町七丁目一番地先交差点北側の横断歩道を原告が西側から東側へ横断中被告清子が普通乗用自動車(登録番号名古屋五る九二五七号)を運転南進して来て右横断歩道を通過しようとしてその右前部を原告の左腰部付近に衝突させその場に転倒させたこと、右事故によつて原告は骨盤骨折、顔面、右手、両膝打撲擦過傷、前歯折損の傷害を受け、当時の診断では全治約四ケ月ということであつたが、原告は事故直後から昭和四一年六月二二日まで操病院に入院し、右病院退院後も同病院へ通院するかたわら岐阜大学医学部附属病院へ通院したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、原告は岐阜大学医学部附属病院の医師のすゝめで昭和四二年一一月一四日から昭和四三年四月二四日まで岐阜県立下呂温泉病院に入院治療し、右病院退院後も美濃加茂市太田町の野尻整形外科病院ならびに岐阜人学医学部附属病院に通院し現在なお加療中であるが、右温泉病院入院当時骨盤の骨折部の骨は完全に癒合していたが、恥骨坐骨に変形を生じ、左下肢不全麻痺、左股関節の屈曲の障害臀部、左股関節部の疼痛等の後遺症が残存し、歩行時は跌行を免れずまた正坐するにも不自由で今後最低六ケ月間の治療が必要であり、一方路面で顔面、頭部を強打したため受傷後三日間程意識が判然としなかつたが現在においても後頭部痛や眩暈に悩まされており、この症状は今後も長期間続くものと診断されていることが認められ、〔証拠略〕も右認定を左右できず他に右認定を左右しうる証拠はない。

ところで、被告健がその子二人と共に同被告の妻である被告清子の運転する本件加害自動車に同乗していたことは当事者間に争がなく、〔証拠略〕によると、本件加害自動車は被告健が代表取締役をし被告清子が取締役(総務担当)をしている訴外株式会社森口健商店の所有で日常は右会社の営業のため被告健が運転しているが本件事故当日は正月でもあり右会社の岐阜支店等や岐阜市曾我屋の被告清子の実家に年始廻りをするため被告らがこれを借り受け、一家で出掛けたもので往路は被告健が運転して来たが帰り同被告は酒に酔つていたので助手席に移つて被告清子に運転させ、子供二人を後部座席に乗車させて帰途につき、その途中本件事故を惹き起したものであることが認められる。そうとすれば、本件加害自動車の所有者は被告健ではないが、被告らは右訴外会社所有の本件加害自動車を借り受けて、運転し被告らの私用にも使用していたものであるから、被告らは共同して本件加害自動車を自己のために運行の用に供していたもので自動車損害賠償保障法第三条にいういわゆる運行供用者であるというべきである。従つて右法条但書の免責事由の認められぬ限り、本件事故による受傷の結果原告が蒙つた損害は被告らにおいて各自賠償すべき責任がある。

被告らは本件事故は原告の一方的過失のみによつて発生したものである旨主張し、原告は被告清子に過失があつた旨主張するのでこの点について検討する。

(一)  本件事故の現場は岐阜市の中央部を南北に貫通し国鉄岐阜駅へ通ずる道路であつて事故現場の横断歩道の南側には信号機が設置された交差点であること、本件事故当日は霙まじりの雨降りで特に自動車にとつては視界が充分でない状況であつたことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕中岐阜警察署長に対する調査嘱託の結果によると

(二)  本件道路の幅員は二六・五メートルであつて、西端から一七メートル余の地点で原告と本件加害自動車が衝突したものであること

(三)  昭和四一年四月八日当時における右交差点の信号機の信号燈の信号時間は東西で青色二四秒青点滅二秒黄色二秒赤色三〇秒であつたから本件事故当時も右と同様であつたものと推定できること

(四)  原告は本件事故現場の横断歩道を西側から横断を開始した際自己の対面する信号燈が青色であることを一見したのみで、その後は折柄前記ような天候のため傘をさしていたこともあつたため信号を見守ることなく歩み続け、道路中央部附近で信号燈が赤色に変つたのにも気付かなかつたばかりか、南進して来た訴外後藤寿一運転の普通自動車が道路中央部附近の横断歩道直前で停車したにも拘らず更に歩行を続けた結果、本件加害自動車に衝突したものであること

(五)  被告清子は本件加害自動車を運転して右交差点の信号機の南北の信号燈が青色であつたので時速約二〇キロメートルの速度で横断歩道に近づいて行つたのであるが、前記天候と前記訴外後藤寿一運転の自動車が右前方を先行していたため横断歩道上に横断者がいるかどうかを確認することが困難であつたが、訴外後藤運転の右先行車が徐行し停止したのを現認したのであるが右先行者が何故かかる行動を採つたかに注意を払わず横断者の発見に努めることなく漫然同一速度のまま進行したため先行車の陰から進路上に歩み出てきた原告を右前方約七メートルに発見し急停車の措置を講じたが間に合わず自車の右前部を原告に衝突させたものであること

がそれぞれ認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右しうる証拠はない。

右事実によれば原告は横断開始直前に信号を一見しただけでその後は全く見ていなかつたもので歩行者として絶えず信号に注意し途中で信号が変わつても安全に渡り切れるようにすべきであるのに訴外後藤寿一運転の前記自動車が横断歩道手前で停止した後においても進路の安全を確かめることなく歩行を続けた点において過失があつたものというべきであるが一方被告清子においても右訴外人の先行車が停止したのを現認したのであるから当然横断歩道を横断してくる者があることを予見すべきであつたしその予見も可能であつたものと認められるので、右先行車のように徐行又は一時停止し横断歩道上の安全を確認すべき義務があつたのに拘らずこれを怠つた過失があつたものといわざるをえない。

そうとすれば本件事故は原告の過失と被告清子の過失とによつて発生したものといえる。されば被告らに損害賠償責任のあることはもちろんである。

そこで本件事故によつて原告の蒙つた損害について判断する。

原告主張請求原因四、の(一)のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、チ、リ、は当事者間に争がなく、〔証拠略〕によると操病院における入院費治療費として合計金三四万〇、三二〇円を要したことが認められ更に〔証拠略〕によるとチ、のほか歯の治療代として金一五〇円を要したことが認められる。以上のうち操病院における入院費治療費、折損前歯の入歯代等、コルセット代を被告らが支払つたことは当事者間に争いがないから、結局原告の蒙つた積極的財産損害は前記(一)のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、の合計金八万八、七六六円とみるのが相当である。

〔証拠略〕によると、原告は本件事故当時日本国有鉄道岐阜工事局に臨時雇として勤務し、本件事故前一ケ年の給与所得は金一七万四、六〇一円であつたこと、しかるに本件事故による傷害のため長期欠勤したため、昭和四二年四月二五日付で解雇されてしまつたこと原告は臨時雇という名称ではあるが他の同僚も引続いて勤務しているところからみると原告は本件事故に遭わなければ引続いて昭和四四年六月頃まで約三年半の間は少くとも右割合による収入を挙げえたものと認められるのに、その間僅かに金九、〇〇〇円の給与所得があつたのみで金六〇万二、一〇〇円余の得べかりし収入を失つたことが認められる。そうとすれば本件事故により原告の蒙つた消極的財産損害は金六〇万二、一〇〇円であると認めるのが相当である。

以上の総合計金六九万〇、八六六円が原告が蒙つた財産上の損害というべきであるが、原告には前記のように過失があるのでこの過失は被告らの賠償すべき額を金三五万円に減額する限度で斟酌するのが相当である。

次に慰藉料について判断する。

原告が本件事故による受傷のため前記のように長期間に亘つて入院し現在もなお通院治療中であること原告の症状、年令その他本件にあらわれた諸般の事情、原告の前記過失を考慮すれば、原告に対し被告らの支払うべき慰藉料の額は金六〇万円とみるのが相当である。

以上の次第で被告らは、各自、原告に対し右の合計金九五万円から当事者間に争いのない昭和四一年一二月一九日支払われた金一五万円、昭和四二年九月二〇日支払われた金一〇万円を控除した残金七〇万円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四一年一月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。原告の本訴請求は右の限度で正当としてこれを認容し他は失当として棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条一項を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫)

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